奈良公園の東側を歩いていると、観光客の多さがふっと途切れる一角があります。そこにひっそりと佇むのが、旧大乗院庭園です。名前は聞いたことがあっても、実際に足を運んだことがない人は多いかもしれません。けれども、一歩敷地に入ると、奈良らしい落ち着いた空気が流れ、思わず深呼吸したくなるような澄んだ静けさに包まれます。
[住所]奈良県奈良市高畑町1083−1
[アクセス]
近鉄奈良駅から徒歩約15分
サンワシティ前の大通りを南へ進み、奈良公園方面へ歩くとアクセスしやすいルートです。
JR奈良駅からは徒歩約25分
駅前から奈良交通バスを利用するとスムーズです。
この庭園は、興福寺の別院「大乗院」の庭として整えられたものです。大乗院は中世の奈良で大きな存在感を持ち、文化・政治の中心として発展しました。庭園の構成は、日本庭園史の中でも名を残す作庭家・善阿弥(ぜんあみ)によるものと伝わっています。善阿弥は、室町時代に活躍した“庭づくりの名手”として知られ、当時の上層文化と深く結びついた人物です。
庭の中心には池が広がり、周囲には自然石や樹木が控えめに配置されています。派手さはありませんが、歩く角度によって景色がゆっくりと変わり、季節ごとに異なる表情が現れるのが特徴です。春の若葉、夏の水面の輝き、秋の紅葉、冬の静まり返った景色――どの季節も自然の美しさが際立ち、思わず写真を撮りたくなる瞬間があります。
奈良公園周辺は観光スポットが多く、東大寺や春日大社、興福寺など見どころに事欠きません。しかし、旧大乗院庭園はそれらとは少し違い、華やかさよりも“空間そのものを味わう”タイプの場所です。観光で歩き疲れたときに立ち寄ると、風の音や鳥の声がよく聞こえ、奈良の自然と歴史の中に自分が溶け込んでいくような感覚があります。
また、庭園は整備が進んでおり、園内の散策がしやすい点も魅力です。ベンチに座り、ゆっくりと景色を眺めている人も多く、地元住民にとっても憩いの場になっているようです。観光シーズンでも比較的静かで、ゆとりを持って歩きたい人には特におすすめできます。
庭園周辺には奈良県庁や奈良ホテルがあり、観光ルートに組み込みやすい立地です。たとえば「興福寺 → 旧大乗院庭園 → 奈良公園散策 → 春日大社」という流れにすれば、歴史と自然の両方をじっくり楽しめる一日になります。
華美ではないけれど、訪れると「また来たい」と思わせてくれる不思議な庭。旧大乗院庭園は、奈良観光の中でも静かに心を整えたいときにぴったりの場所です。時間に余裕がある旅なら、ぜひ立ち寄ってその空気感を味わってみてください。
※写真はすべてWALK-TRIPS事務局が現地で撮った写真です